デジタルによる変革、DXは多くの企業にとって避けて通れない道ですが、帳票電子化で満足してしまったり、推進部門がシステム運用に終始したり…という事態に陥りがちです。特に製造業の場合、属人化や紙への依存、現状維持意識などがDXの道を複雑にしています。
そんな中、スター精密株式会社では経営・管理、製造現場、情報システムと会社全体でDXに取り組み、製造現場DX実現プラットフォーム「TULIP」も用いて具体的な活動を進めています。TULIP導入背景から実際の活用法まで、幅広い立場の方に取材した内容をご紹介します。
スター精密のTULIP活用DX実現ポイント・タイミング:新工場稼働へ変革機運の高まり
・ワンチーム:経営・製造・情シスと組織貫通・横断の体制づくり
・明確な未来図:デジタル化で終わらない、データ「活用」まで見据えた選定・実行
DXへの道筋-背景と組織体制
DX実現への決断
国内の製造業では、情報システム部門は主に全社システムの運用などを担当しており、製造現場のIT導入へのかかわりが薄いと言われます。製造現場でのデジタル化やシステム導入については、工場の権限で、工場単位で決められていくことが多いようです。
同じような状況だったスター精密ですが、海外製造業での自動化の進展などを目の当たりにした経営層を中心に、2020年前後から変化の必要性が説かれるようになります。
さらに、2025年に新工場竣工が予定されており、工場のDXを進める方針を固めました。これは工場単体でなく、アフターサービスのデジタル化など組織全体に波及する戦略として掲げられたものです。同社がDXを単なる技術的な取り組みではなく、企業の根本的な変革と捉えていることの表れです。
情報システム部門の改革
DX推進の方針を固めた当時、機械事業部には本社の情報システム部とは別のシステム部門があり、全社を統合した考え方は生まれづらい組織構成になっていました。
本社では全社系(会計・人事給与)や特機事業部系システムの運用管理、機械事業部のシステム部門では工作機械の生産販売システムの運用管理が主な役割になっており、とはいえ運用も手がかかるのは事実で、製造現場からシステムやデジタル化について相談があってもなかなか進められず、部門間でコミュニケーションがとりづらい状態だったそうです。
製造現場の改善が加速したのは、2022年に情報システム部門を統合し、各現場に対応する担当者をつける組織に変えてから。
「現場」と「情シス」とのコミュニケーションが強化されたことで、情シスは現場のニーズを把握。そのうえでITの知見を踏まえて助言ができるようになりました。現場としても想像を超えた視点やアイデアが出てくることで非常にメリットがあり、また、担当制も重要で「現場を理解してくれる人の助言」ということで反発も起こりにくかったそうです。
こうした環境を整えつつ、スター精密ではDXへのさらなるステップアップを進めます。それが、2022年の「課題抽出プロジェクト」と、その解決に向けて2023年からスタートした「見える化プロジェクト」でした。
「見える化プロジェクト」をTULIPで実現へ
製造現場と情報システム部門との連携で抽出された業務課題は多岐にわたりました。当時、スター精密では部品加工の自動化や精度向上は高水準だったものの、記録に紙が用いられることが多く、効率化の妨げとなっており、紛失や不正リスクも残されていました。
また、それらの記録を探したり、傾向を調べたりすることも難しい状態であり、デジタル化して「データとして活用していく」ことが重要という認識から立ち上げられたのが「見える化プロジェクト」でした。
「TULIP、使えるぞ!」
スター精密の複数の方が展示会でTULIPを見ていたことをきっかけに、詳しく確認してみようということで製造現場・情報システムの担当者を集め、東京のTULIPエクスペリエンスセンタ(TEC)を訪問。生産技術の観点からはサンプルアプリやデバイスのデータ化、情報システム部門の観点からはデータ活用に向けたデータの持ち方にTULIPの大きな可能性を感じていただきました。
ちなみに、導入検討にあたりこんなキーワードを掲げ、すべてをクリアできるのがTULIPだったとのことです。
- API(既存システムとの連携は?)
- オールインワン(多岐にわたる課題をすべて解決できるか?)
- スモールスタート(今見えている課題を迅速に解決したい)
- クラウド(オンプレではセキュリティリスクや運用コストが…)
- フレキシブル(将来にわたり活用していけるか?)
- ローコード(誰もが活用できる仕組みになるか?)
ローコードについては、実はツールにより難易度に差があることもあるので情報システム部門を中心にレベル感をチェック。TULIPは難易度が低く、安心して取り組めるとの判断でした。
DXを見据えて、電子帳票システムは却下
TULIPを評価いただいたものの、実はある電子帳票システムも検討されたそうです。手軽に紙を置き換えられる点、計測器との連携もできる点ではTULIPとも互角。ただ、いわゆる「デジタル化」で終わってしまい、DX実現には厳しいと考えた、と教えていただきました。
表計算ソフトの指定の位置に値を入れて見た目を整えることはできても、データとして・レコードとして捉えていないために、活用するにはまたひと手間もふた手間もかかる。
全社的なDXを見据えるスター精密にとっては「電子帳票」化では不足でした。
TULIP導入へトライアル開始
導入に向けて、TULIPのトライアル期間を設けて実際に使い始めていただきました。スター精密社内の決裁を得るために「今」と「未来」の二本立て作戦で進めていきます。
「今」すぐ使えることの証明として、業務に即したTULIPアプリを作り、実際に使える状態にする。まさにスモールスタートの実践です。
そして弊社T Project作成「TULIPを使ったDXの進め方資料」も活用して、スター精密のDX実現ステップを「未来」図として経営層に説明する。この流れと、上記の課題要素をクリアしている点を評価され、無事にTULIP導入が決定しました。
スター精密のDXへのTULIP活用と、これから
導入決定からこれまで。チーム作りと現場展開
TULIP導入を決定頂いた際、当時の現場の課題感はどのようなものだったのでしょうか。チェックシートや検査成績表などは紙への記入で行われており、ファイリングして終了という状態でしたが、日常の作業が第一で改善の優先度は低かったと言います。
それが2022年「課題抽出プロジェクト」と情報システム部門の改革を経て、2023年の「見える化プロジェクト」で変革への機運が高まり、高い期待とともにTULIP導入となりました。
導入時点ではすでにトライアル時に作成された検査業務用のTULIPアプリがあり、実際に使い始めていましたが、本導入を機に業務への本格展開を開始。導入に関わったプロジェクトメンバーはもちろん、新たにTULIPに触れたメンバーからも効率が良くなったと好評です。
さらに社内での一層の浸透のために、見える化プロジェクトメンバーを中心に、業務のアプリ化、アプリの利用方法などのトレーニングを実施しています。
非常にスムーズに展開されている印象ですが、実は難しかったところや、うまく進められたポイントを伺いました。重要だったのは、他部門が関わるプロジェクト内で目的を一つにし、サンプルアプリでの業務改善ポイントを把握したうえで取り組んだこと。作成した検査用のアプリを展開するにあたり、業務に関わる全ての人にぶれなく伝えられました。
さらなるTULIP活用へ
とはいえ、現場業務の面では、見える化プロジェクトであぶりだした改善点で実現できたのは5%程とのことで、まだまだアプリ化して生産性向上できることが残されているようです。
経営視点ではペーパーレス・データ化を推進し、2025年の新工場稼働の際にはデータを活用した改善、自動化を着実に行えるようにしたいとのことでした。収集したデータの活用例として外観検査にAIを用いるなど、一層の応用も視野に入れているそうです。
さらに、従業員の誰もがTULIPを用いて、改善・自動化・データ活用に当たり前のように行えるようにしたいと語っていただきました。
T Projectから中長期の計画を見据えつつ、DXの実現へ向けてそれぞれの立場でプランを確実に遂行されているのが印象的でした。新工場稼働時には、またお話をお聞かせください!
スター精密株式会社について
スター精密株式会社Webサイト https://star-m.jp/
今回お話を伺った皆様(お忙しいところ誠にありがとうございました。)
佐野 光司 様(執行役員 機械事業部 副事業部長)
北村 肇 様(機械事業部 製造部 部長)
澤井 泰範 様(管理本部 情報システム部 事業システム管理室 室長)
・機械事業部 製造部
佐野 涼太 様(生産技術室)
山崎 潤 様(第二製造室)
神麻 晃司 様(第一製造室)
・管理本部 情報システム部
小野 貴大 様(基幹システム管理室)
石神 美穂 様(事業システム管理室)
※内容は原稿掲載時のものです。