人手作業で起こる不正(1-7)

書籍「誰も教えてくれない製造業DX成功の秘訣」から、内容を一部ご紹介しています。
相次ぐ製造業での品質データ改竄などの不正。その背景にあるものとは。

品質データ改竄・不正が生まれる背景とは

非常に残念なことに、最近になって企業による品質データ改竄といった不正が何度もニュースを賑わせている。

データ収集で人手を介すと間違うおそれがあるため、自動的にデータを収集できる仕組みが望ましいと説明した。しかし、この事例は人手が介在するのをいいことに、自社や当該部門に都合の良いよう、意図的に実測値とまったく違うデータを長年にわたり取引先や監督官庁に報告していたようなケースだ。

日本は「世界に冠たるモノづくり大国」「日本人は勤勉で真面目」というこれまでの評価を裏切るもので、日本企業の国際競争力の低下を図らずも示していると言える。

これはあくまで想像だが、データ不正が行われた会社はその多くが、高いレベルの日本品質、日本クオリティを備えた製品や部品を社内外から強く求められていたのだろう。「品質検査を何が何でもパスしなければならない」というプレッシャーからか、都合の良いようにデータを書き換えていたケースもあったものと推察される。
もちろん求められた品質に到達できなかったという事実が知られると、自分たちの部門の業績や評価が下がる、上司に叱責されるという考えがあったのかもしれない。

機械的に収集するデータは改竄の余地がない

私が読んだ品質データ不正の新聞記事で面白いと思ったのは、品質検査で合格になる値をエクセルでわざわざ計算し、それを入力していたという事例だ。

実は企業の経営層は製品の品質向上を現場に求めるだけではなく、不良品が発生することは理解した上で、なぜ不良品が出たのかということにきちんと向き合わなくてはならない。
例えば不良率を0.01%の範囲内に収まるようにしなければいけないという会社の暗黙のルールのようなものがあり、それにどう対応したらいいか苦悩する社員の心理も背景にあったのではないかと思う。

一方で、機械が取ってきた生のデータは客観的な数値で、改竄されたものではあり得ない。
これについては機械やセンサが壊れて間違ったデータが出力されていない限り、文句のつけようがない。データ不正を根絶するには、こうした機械が収集したデータを、本当に信頼性の高いものとして分析できるような企業のカルチャーや体制も必要になる。

DXを実現していくその裏で、企業の組織や運営の仕方なども透明性が高く、業務改善や新たな価値創出に向けて部門間の協調・連携がしやすい形に変えていかないと実現が難しいとよく言われるが、まさにその通りであろう。

ただ、不正が起こる陰には現場の人がやりたくてやっているわけではなく、上層部から指示が降りてくるような組織ぐるみの場合もある。よくあるのは過去10年、20年、企業によっては30年にもにわたってずっとデータ改竄をやってきたというケースで、大方の現場の人は不正だとは認識していない。逆に、それが正しいやり方だと思っていたりする。

つまり、こうした企業はガバナンス(統治)がまったくなっておらず、まさに技能伝承のような形で不正が共有され、長期間にわたり繰り返されてきた。関わった社員たちも、新たな技術開発で壁を乗り越えようという前向きな考えを持つことなく、思考停止に陥ってしまっている。これは、企業経営にとって非常に根の深い問題と言える。

「誰も教えてくれない製造業DX成功の秘訣」

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